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親父がくも膜下で倒れたという突然の知らせを受けて病院に駆けつけた日のことを、私はこの先ずっと忘れることはないだろう。
そして、このまま意識が戻らない可能性もあると医者から告げられた時の母のあの横顔もまた同様に。
入院以来母は毎日面会に通った。来る日も来る日も意識は戻らなかったが、決して希望を捨てることはなかった。
そして入院からちょうど2週間目の5月10日。意識が戻らないまま親父は自身の誕生日を迎えた。その日は私も母に同行して面会に行ったが、内心これはそろそろ覚悟した方がいいかもしれないとも思い始めていた。
病床の父は相変わらず穏やかな顔で眠っていた。押し黙る二人に対して担当の看護師さんが今日は誕生日なんですよね?と話しかけてきてくれた。そのさりげない気遣いが本当にありがたかった。
それからしばらく様子を見ていた。すると、親父の目が若干開いていることに気付いた。今までの会話を聞いていたのだろうか。看護師さんにそのことを告げると慌ててどこかへ走り去っていった。
そして親父はそばに立っていた私を見つけると、口をゆっくりと動かして酸素マスク越しに「ごめん」と言った。どういう意味で言ったのかは分からない。が、僕の涙腺を崩壊させるには十分だった。
あの日から早一年。今では近くの公園を毎日散歩するくらいにまで回復した。