たまたま見つけた中華料理屋で遅めの朝食を取った。サイン色紙がいくつか飾ってあり、その中には桑田真澄のものもあった。注文した肉野菜炒め定食は少し甘めの味付けで空っぽの胃にもやさしかった。Kはレバニラ定食を頼んでいた。
店を出た後「いやー美味かった!」と言うと「いや、まずかったよ」と一言。どうやらレバーがパサパサとしていて、あまり口に合わなかったようだった。確かにそれは分かるけども、もう少し言い方どうにかならないもんかなあ。気分が一気に下がってしまった。
予約していたホテル白岩へ向かい、荷物だけ先に預かってもらうことにした。初老の方が淡々と対応してくださった。
ホテルを出た後Kに「ホテルのフロントとしては何だか無愛想だったよね」と軽く言うと「まあそんなイライラしても仕方ないじゃん?」と一言。別にイライラはしていないのだが「それもそうだね」と簡単に返す。
ひとまずは三原山へ向かうことにした。歩きで山頂口へ向かうも、すぐに「おや?これはまずいぞ」と気付く。レンタカーを借りるため港の方まで引き返すことにした。
トヨタレンタカーへ寄ると運よく最後の一台が残っていた。1日+4時間で1万2千円也。いやはや結構するもんだ。とはいえ背に腹は代えられない。さっそく借りて再び三原山頂口を目指す。
道を進んでゆくと、直線の緩やかな坂道は次第に険しい峠道に変わり始めていった。Uターンと変わらないぐらいのきついカーブがいくつか続く。いやいや、これはもう絶対徒歩じゃいけないだろうと二人で苦笑する。
途中で開けた場所に出てきた。車も何台か止まっている。だが山頂口という看板はどこにもない。港でもらってきたリーフレットの地図を見ても山頂口とは書かれていない。ここではないと判断して先に進む。
しばらく行くと大島温泉が見えてきた。そして道は次第に下り坂に。ここでようやく、さっきのあの開けた場所が山頂口だったことに気付く。Kに謝り、来た道を引き返してもらった。こうして12時半ごろ、山頂口に到着。
車から降りてみると、ワイシャツでも少し肌寒く感じるほどだった。一般に、標高が100メートル上がるごとに気温は0.65度下がると言われている。三原山頂口の標高は550メートルで現在の平地の気温は20度。つまりここの気温は約16.5度。山頂の標高は758メートルなので登り切った頃には約15度まで下がることになる。風も強いし上着持ってきた方が良かったかも。
交番と土産物屋を通り過ぎて左に折れると、右手に溶岩でできたかまくら風の建物とショーケースに並べられた手のひら大ほどの溶岩、一軒家のカフェと続く。カフェは残念ながら営業していなかった。さぞかし美味いコーヒーが飲めたことだろう。その先に展望台があって三原山の全貌を見渡すことができた。ん?じゃあ今立っている場所は一体?
展望台の右手に下り坂があった。山を登るのに下り坂?道を間違えたのだと思い、一旦土産物屋まで戻る。しかし他に道らしき道はない。看板や立て札も見当たらない。ということはあの下り坂で良かったのかもしれない。本日3度目の引き返し。
山頂遊歩道とお鉢巡りコースを行くことにした。しばらくは平坦な道が続く。舗装されていてとても歩きやすい。20分ほど歩くと道が上り坂になり始めた。話しながら歩いているとちょっと呼吸が苦しく感じるかなーくらいのきつさ。
次には登山道特有の巻き道が現れる。傾斜もややきつい。このあたりから会話も途切れ途切れになる。巻き道を過ぎるとまた平坦な道になった。右手には三原神社の鳥居が見えてきた。山頂に到着。
2階建ての古びた展望デッキを登ってみたものの、特に景色は変わらず。すぐに降りてさらに先に進む。ここからはお鉢巡りコース。スニーカーでも歩けないことはないが、気を抜いていると滑って転びそうになる。特に下り坂は少し滑るとそのまま砂利に運ばれてズルズルと持っていかれる。
噴火口を覗くのは生まれて初めてのことだった。言葉にならなかった。というよりも足がすくんで何も言えなかった、が正解。万が一落っこちたらおしまいだろうなあなんてぼんやりと考えてたら余計に怖くなった。
感動よりも恐怖の方が大きかった。この噴火口に比べたら人間の存在なんて本当にちっぽけなもんだ、お決まりのことを考える。しばらく眺めたあとまた道を進む。たぶんここでようやく半周といったところ。
1周回り終えて三原神社に戻ってきたのは14時半前。そこから山頂遊歩道を歩き、土産物屋のある三原山頂口へ戻ってきたときには15時を過ぎていた。土産物屋の牛乳アイスは残念ながら売り切れ。ベンチに座り感想を言い合いながら、しばしぼーっとした。
車に乗り込みホテルに向かう。フロントに確認すると駐車場は自由に使っていいということだった。やはりゆるい。鍵を受け取りいよいよ部屋へ入る。401号室。2面採光で奥行きのある和室。窓越しにばっちりと海が見えた。所々古臭さはあるものの十分だった。
座椅子に座り、急須で淹れたお茶をすする。至福のひと時。最も贅沢なことは、こうして旅行先でぐうたらと過ごすことなのかもしれない。パソコンで周辺を調べてみると、ホテルから徒歩9分ほどの場所に弘法浜という砂浜があることが分かった。明日行ってみるとしよう。
Kがスーパーへ行こうと提案してきた。ホテルへ来るときに見かけた「べにや」というご当地スーパーのことを指して言っているのだろう。私もちょうどプリンが食べたかったので二つ返事で同意した。店内はわりと広かった。客も多く大抵は地元民のように見えた。驚いたのはセルフレジが導入されていたこと。さすがは東京都。
部屋に戻って、飲み食いしながらアットホームに過ごす。だがしばらくしたらまた外に行かなければならない。それが素泊まりの宿命だ。観光協会でもらったグルメガイドを眺めながら夕食の候補を探す。最初は竹馬という焼肉屋にしようと思ったが、カード不可だったので断念。結局、居酒屋島に行くことになった。
19時ごろホテルを出た。目印の赤提灯は見つかったが、店内の明かりはついていなかった。張り紙がされていて連休中はしっかりとお休みなさるらしい。計画はまた白紙になった。しばらく歩いてみたがほとんどの店は閉まっていた。街灯も少なくて本当に活気がない。
海沿いを歩いていたら焼き鳥よっちゃんという店を見つけた。足の疲れもピークに来ていたのでここに決めることにした。テラス席にはすでに一組座っていた。近くを通ると英語で会話していた。いつものようにKはビール、私はウーロン茶で乾杯。それからつくね、豚バラ、豚タン塩、馬刺し、焼きイカ、明日葉フランク、肉巻きおにぎりを堪能してホテルへ帰還。
テレビを付けるとちょうど崖の上のポニョがやっていた。きっとこれから先ポニョを見る度、この伊豆大島の旅行のことを思い出すんだろうなあと思った。少し休んでから1階の温泉浴場へ向かった。先客は3人ほどいた。湯船に浸かると疲れがみるみるうちに取れていった。極楽極楽。
伊豆大島の一日目はこうして無事に終わりを迎えた。
明日へ続く。