雨と晴れを行ったり来たり。会場に着く手前で盛大に降られる。実にらしい。まずは花の窟で参拝。会場に入るとすでに女性が1名来ていた。地味目で陰鬱そうな雰囲気。マスクが余計にそれを際立たせている。軽く話しかけようと思ったがついぞできなかった。
プロフィールシートを記入していると趣味・特技欄で手が止まる。あれ、自分の特技って何だろう?その間にも続々と参加者がやってくる。男性陣もどことなく覇気がない。
司会進行役の女性から少し説明があったあと早速トークタイムが始まる。持ち時間は一人あたり5分。短い。
1人目。新宮住みの保育士。33歳。ひーさん。趣味は音楽を聴くこと。とにかくおとなしい。
そもそもこういう場ではどんなことを話すのが正解なのだろう。このわずかな時間の中で限りなく距離を縮めるための質問とは何だろう。だめだ。まったく思い浮かばない。初めてなのだから仕方ない。というわけで、とりあえずプロフィールから気になったことを拾って片っ端から聞いてみることにした。
彼女について分かったことは、短大進学を機に松阪市で一人暮らしを始めた。自炊は一応していたものの、焼きそばなど簡単なものが多かった。卒業後すぐには地元に戻らず、一時期は埼玉の所沢にも住んでいた。その時は九段下で今とは違う職に就いていた。その後、紆余曲折あり地元に戻り保育士となって現在に至る。
5分で知れることなんてせいぜいこの程度だ。そして、いくら表面的なことを知ってもその人の人間性は見えてこない。彼女からの質問は特になくそのまま終了となった。
2人目。南伊勢住み。よく笑うふくよかな30歳。ニラが嫌いという話から始まり、甘いものが好きという話で幕を閉じる。「余白」というケーキ屋はとにかくおすすめらしい。こちら側からの話は一切無し。何だ俺は小堺一機か。
3人目。なおさん。介護事務。色白の34歳。同じ町内在住ということですぐに打ち解ける。移住されて来たんですか?と目を丸くする彼女の表情はまるでタヌキのように愛くるしかった。
彼女もまた大阪、静岡、愛媛と転々としたあとで3年前にUターンしてきたらしい。プロフィールシートもそこそこにその後も延々と話し続けた。
4人目。かなさん。尾鷲住み。保健師。ふっくらとした31歳。AB型。朗らかな雰囲気。まるでカウンセラーに話しているような気分。話しやすさで言えば彼女が一番だった。
先日、尾鷲市を初めて訪れて純喫茶磯に寄ったこと、移住の理由などを話した。それから彼女の生い立ちについても尋ねた。が、忘れた。あまり興味を抱かなかったのだろう。
こうして同年代女性と話すリハビリは無事に終わった。自分が思っているより自分はコミュ力があるのかもしれないと少し自信がついた。要するに自分で勝手にハードルを上げていただけだった。君は今のままありのままで十分に魅力的だ。そんなふうにもう一人の自分から言われたような気がした。
女性陣の度重なるドタキャンにより男性陣が3名ほど余ったので、その後は余った参加者と主催の若林さんによる男子会となった。正直こっちの方が楽しかった。隣に座っていたのは紀北町から来たというともやさん。体格のわりに声が高くておっとりしていてそのギャップが面白かった。
そんなこんなでイベントはあっという間に終了した。最後に、各自気になった人の番号を書いて主催者に渡した。マッチングしなかった場合はそのまま解散。僕も当然その中に含まれていた。
最後に改めて花の窟に参拝することにした。するとばったり3人目のなおさんと遭遇した。彼女もまた、せっかくだしと参拝しようと思っていたらしい。歩きながら彼女は「実は最後、何も書かずに出したんですよ」と打ち明けた。
え?出会いのイベントなのに?と今度は僕の方が目を丸くした。わけを聞くと「マッチングしたらああやって残らないといけないじゃないですか。それがなんかいやだなーって」とはにかみながら答えた。
「もし書いていたとしたら何番でした?」などと気の利いた返しをするわけもなく、ただ「ああ、なるほど」と僕はそれに答えた。そのあともしばらく立ち話をして、最後に連絡先を聞いて別れた。何年かぶりに胸がドキドキした。これからどうなるかは分からないけど、とにかくこのドキドキを楽しむとしよう。