小田原へやって来た。物臭な自分がまさかこんなに足取り軽くやって来てしまうなんてね。着いたのは14時近くでどうにも小腹が空いていた。不動産屋に向かう途中、沖縄料理屋を見つけたものの店内の雰囲気がどうも合わなくてやめた。不動産屋では人当たりの良いおばさまが担当してくださった。コーヒーとお菓子まで出してもらった。甘やかされっぱなし。
気になっていた物件とそれに近い条件のものをいくつか見せてもらった。同行してくれたスタッフも元々は川崎に住んでいた方のようで、その当時の話とかを色々と聞かせてもらった。
物件自体は悪くなかった。ただピンと来なかった。いつになったらピンと来るんだろうか。そもそもピンと来ることはあるんだろうか。ちんちんならすぐにピンとさせられるのにね。
チェックイン予定時刻を裕に過ぎていたので急いで宿へ向かう。マスターは熊野市のY氏よろしく、とてもゆるーい感じの方だった。ゲストハウスのオーナーというものはだいたいこういうものなのかもしれない。
同じタイミングでチェックインした女と一緒に部屋や設備周りを案内してもらったあと、自分のベッドでしばしまったりとした。部屋はドミトリー型式で二段ベッドが三つあった。
ところでその女のリュックには鳥のぬいぐるみが付いていた。オーナーがそれについて尋ねると女は始祖鳥だと答えた。初めて聞く言葉だった。人の趣味嗜好って本当に面白い。
しばらくしてオーナーが新たな客人を伴ってやって来た。聞けば旧東海道を歩いている最中らしい。最後は京都まで行くのだという。その前には四国で歩き遍路をやったそう。ゲストハウスってつくづくネタの宝庫だと思った。
彼曰く、歩き始めて一週間を過ぎたあたりが一番きついらしい。勢いや気合いなどではどうにもならない壁があるのだという。そこからは体と相談しながらペース配分をしっかりと考えて進む必要がある。達成した後はそれまでになかった自信を得ることができたとも言っていた。こういう話はいくらでも聞けてしまう。
それから彼は洗濯へ僕は夕食へと向かった。幸い近場に蕎麦屋があった。カウンター席が広めに取ってあって一人客にも優しい造り。カツ丼とせいろ蕎麦のセットを頼んだ。ボリューム満点で最後は食べるのがやっとだった。胃の膨満感はその後も寝るまでずっと続いた。
宿に戻ってから喫煙スペースで一服した。ログハウスのような雰囲気とふかふかソファがとても心地よくていつまでもいたいと思った。ふと携帯を見るとY氏からメールが届いていた。パラパラ炒飯がついに作れたらしい。つい最近まで日常だったはずなのに、今ではもうずっと遠い昔のことのように感じられる。
シャワーを浴びてから一階のバーへ。オーナーにコーヒーを淹れてもらった。木製のミルで挽いた真っ黒なコーヒーは、口内で騒いでいたカツ丼の油っぽさを一瞬で落ち着かせてくれた。近くの席では地元民があーだこーだと地元話に花を咲かせている。ゆるやかな時間。あともうしばらくここに座って居るとしよう。