一番難しいのは終わらせること。それに比べたら始めることや続けることは優しい。小説を書くようになってからそのことを知った。

 

始まったものはいつか終わらなければならない。それは何も小説に限ったことではない。人間だってそう。生まれた以上死ななければならない。その間にできることなどたかが知れている。

 

為すことは少ないほどいい。究極は何もしないことだ。一日一日を淡々と生きる。その中で起きたことに対して余計な意味付けはしない。逆らいもせず単に受け入れる。

 

人生の原則はいたって単純。必要なことだけが起こる。そして君に起こせることは何もない。ややこしくさせるのはいつだって主観。希望は持ってもいいが押し付けてはいけない。無いものはやれない。

 

今何もかも上手くいかないのは君のせいではない。実際、君は十分以上によくやっている。それでも一向に好転の兆しがないのは、今の君にとってその状況が必要だからだ。答えを外に求めようとしたくなるかもしれない。でもそれも逆効果だ。

 

そういうときこそ自分自身と向き合うとき。余計に苦しさを味わう羽目になるとしても、それが一番効く。良薬は常に苦い。自分自身と向き合うというのは、ようするに自分を客観視すること。

 

例えばある考えがふと頭に浮かんだとき、それに対して「今自分はこう考えている」と気づく。そう考えた理由、その考えの良し悪しなどは放っておく。そのうち考えも浮かばなくなる。すると心身ともに満たされた状態になる。今度はずっとここに留まっていたいという欲が現れてくる。

 

でもその状態にもいつか別れを告げなければならない。このとき初めて君はあの言葉の本当の意味を知るだろう。終わらせることは一番難しい。