彼と二人きりで話すのは夏以来のことだった。あの頃よりだいぶ自分を開けるようになれたのかも。彼と話していてそんなふうに思った。

 

自分が自分を悩ませている。僕らはもうそのことにずっと前から気付いている。気付いていながらも成す術なくやられてしまう。

 

もし仮にそいつをやっつけてしまえば、これまで築き上げてきたものや大事に持ち続けてきたものが全て無価値だったと認めることになる。だからこそ手が出せない。

 

全てを手放して一からまた新たな自分を作り直す。そんな遠回りな努力をするぐらいなら、多少不満はあってもこのままのらりくらりやってた方がましだと思う自分も正直いる。

 

ほとんどの人は何の疑問も持たずただ漠然と生きている。思考を停止させて彼らのように生きることもできるし、実際そちらの方がはるかに楽だ。もちろん彼らにだって悩みはあるだろう。でも自分をやっつけることに比べたら全く何でもないことだ。

 

20代はまあどうにかなるだろうと気楽に構えていた。30代後半になってようやく、自分でどうにかする必要があることに気付いた。

 

時間は何も解決してくれない。いつまでも先延ばしにしていたら持ち時間のほうが先になくなってしまう。この自分としての生は一度きり。今までどおりの生き方をしていたら確実に僕はこの自分を楽しめない。

 

僕はただこの自分としての一生をとにかく笑って楽しく過ごしたいだけ。能書きを散々垂れ流してきたけど、理由は本当にただそれだけ。いたって単純。何も難しいことはない。

 

要するに自分が自分を悩ませているだけ。じゃあどうするか。そいつを一発ぶん殴ってやればいい。いたって単純。何も難しいことはない。