図書館でのボランティアを終え足早に駐輪場へと向かう道中、ふいに寄席の告知ポスターが目に止まった。

 

いつもだったらちょっと足を止めてその後すぐに退散していただろう。でも今回はそうできなかった。つい先日、一日一個新しいことをやると自身と約束してしまったばかりに。

 

開催日を見てみると明日だった。ここぞとばかりにもう一人の自分が「桂文枝も来るみたいだしきっともう完売しているだろうさ」と囁きかけてきた。そして、販売窓口とは反対の方角へと歩き出した。

 

どれほど決意を新たにしたって結局はこうである。僕と言う人間を心底情けなく思った。自転車に乗りながら、このまま家に帰ったらきっと後悔するんだろうなと思った。それからせめて空席があるかどうかの確認だけでもしようと思い直した。

 

ひとまず近場で昼食を取ることにした。馴染みの店に向かいたくなる気持ちをぐっと抑え、前から気になっていたカフェブージーへと向かった。予想どおり雰囲気の良い店だった。

 

店員は全員女性、カウンターには女性の一人客、背後のテーブル席には女子高生の2人組。女性ばかりの店にもさい男が一人のこのこと現れた。店員からすればそれは紛うことなき事案であるに違いなかった。

 

カウンターに座りコロッケとエビフライ定食を注文。すぐ横がレジ台となっていて、ホール役の店員が常に視界の隅に入ってくるという気まずさの中、まずはみそ汁を一飲み。あ、美味い。思わず気まずさを忘れてしまうほどに。

 

エビフライに手を付ける。勢い余って殻まで食べてしまったが、まあ問題ないだろうと鷹を括って十分によく噛んでから飲み込むも普通につっかえた。周囲の目を気にしつつ遠慮気味に咳き込んだ結果、うふんと何とも可愛らしい声が出てしまい余計に注目を浴びる羽目に。

 

その瞬間、一気に顔が熱くなって「もう嫌だ消えたい」とメンヘラ女とまるで同じようなことを考えた。水をがぶりと飲み、ちらりとレジ台の方へ視線を移すと、なんと店員は全くこちらを見ていなかった。

 

考え過ぎだった。ハナから注目なんて浴びていなかったのだ。勝手に恥ずかしい思いをしていただけだった。そう気付いて改めて恥ずかしくなった。その後せっせと箸を進め食後のコーヒーを優雅に楽しんでから図書館に戻った。

 

確認の結果、まだ席は残っていた。これでもう言い訳は無くなった。人の大勢いる場は確かに苦手だけど、生で落語を見てみたい気持ちもそれ以上にあった。僕は意を決して、その場でチケットを購入した。

 

本当は落語を見た感想について書くはずだったのに。というわけでその話はまた次の機会に。