夜、旧友から電話があった。散歩中に実家の前を通り、もしかして帰ってきてるかなと思い連絡してきたらしい。
どうやら今年に入ってから心境の変化があったようで、一人でいることの寂しさややり切れなさ、人とつながることの大切さ、そしてそれを今まで蔑ろにしてきたことへの後悔などを淡々と打ち明けてくれた。それから彼は「今週いっぱい休みだったけど、特にこれといってすることもなくてさ」と情けなく笑った。
そっちはどう?と聞かれ「孤独や退屈を感じることももちろんあるし、似たようなもんだよ」と答えた。彼は意外だと一言そう答えた。
確かにこれまで内面的な話はほとんどしてこなかったし、そう感じるのも無理はない。なぜしてこなかったかと言えば、彼には伝わらないだろうと決め込んでいたからだ。
「休みもここまで長いと逆に辛いね。仕事してた方が断然楽だよ。その間は色々考えなくていいしさ」と彼が言うのをうんうんと聞きながら、親父のことを思い出していた。
仕事を頑張るのはもちろん良いことだ。でもそれに一生執着するような生き方は空しい。いずれ手放す時がやって来ることを理解して、他に夢中になれるものを一つぐらいは持っておくべきだ。それが仏教の実践だったら尚良い。
ふいに彼が「年齢的なものなのかもね~」と言い、僕はそれに「そうなのかもね~」と同意する。でもきっと年齢に関係なく、誰もがそっと胸に秘めていることだと思う。空気を読んだり、強がったり、ごまかしたりして見せずにいるだけで。
だからこそ、彼が打ち明けてくれたことがとても嬉しかった。そしてそんな彼を強い人だと思った。だってそれは自分の弱さをちゃんと認めているということだから。
それから結局、1時間ほど話した。「話を聞いてくれてありがとう」と照れたように彼が言い、僕はそれに「友達なら当たり前~」とふざけて答える。彼の幸せを心の底から願いながら電話を切った。
今度実家に帰った時はうんと彼のフィリピンパブ巡りに付き合ってあげようと思った。