―もういい加減、ありのままの自分になったらどう?

 

いや、分かってはいるんだけどさ。

でもいざそうなってみて、もし受け入れてもらえなかったらと思うと怖くってね。

 

―つまり、傷つきたくないから良い人を演じ続けてるってこと?

 

そういうことになるかな。

でも結局は自分をすり減らしてるわけだから、結果的には大して変わらないよね。

 

―何とも滑稽だね。じゃあやめたらいいのに。

 

まあ、そうなんだけどさ。

合わせること以外に他人と上手く関わる術を知らないからさ。

 

―少しでも違うことを言ったら嫌われるんじゃないかって?

 

そうだね。

やっぱり不愉快にさせたくないし、せっかくなら楽しい気分でいてもらいたいし。

 

―それってさ、単に君自身が「ありのままの自分では受け入れてもらえない」って思ってるだけなんじゃないの?

 

え?

 

―あと良い人っていうのも聞こえはいいけどさ、単に相手にとって「都合の」良い人ってだけでしょ?

 

え?

 

―で、実際こうして君に対して好き勝手べらべらと話してるわけだけど、それで不愉快になったりした?

 

いいや。

そういう考えもあるのかーって思うだけ。

 

―他人だって大して変わんないよ。でも、君にはそれが信じられないんだよね。人間関係のベースは12歳頃までの親との関係性で決まるともいうしね。

一人っ子の君が険悪な両親の板挟みにあいながら顔色を伺い続けてきたことを考えれば、そうなるのも仕方がないとは思うよ。

 

確かにそれが影響しているとは思う。でも、

 

―そう、君はもうあの頃のように無力な子供じゃないし、両親にもあの時辛かったってことをちゃんと口に出して伝えられた。だからもう親は関係ない。原因はあくまで君にある。

 

親にそのことを伝えられた時、これでようやく自由になれたと思って嬉しかった。人間関係もきっと良くなるに違いないとも思った。

でも実際は全然変わらなくてすごいショックだった。じゃあ他に何をどうすればいいんだろうって怒りも湧いた。

 

―今の君はまるで「カバンに糞を詰めて歩く人」のようだ。これはアチャン・チャーっていうタイの僧侶が残した言葉なんだけどさ。

その人はどこに行っても何をしてても常に「臭い臭い」と悩み苦しんでるんだ。はたから見ると笑っちゃうけど、本人はいたって真面目に原因を探し続けている。

じゃあもし君がその人に「ここよりも臭くない場所を教えてくれ」って聞かれたらどう答える?

 

いや、シンプルにそのカバンを捨てたら?って言うと思う。

 

―ならシンプルに君もそうしてみたら?

 

どういうこと?

 

―だからさ、頭に詰まったそのぷんぷん臭う思考や妄想を丸ごと全部捨てちゃえば?って。でもきっと君には無理だろうね。だって本当は悩んでいたいんだから。

 

そんなことないもん!

 

―まあ期待はせずに期待してるよ

 

最後に一ついい?

「ありのままの自分になる」って何かどうも違う気がする。

「ありのままの自分で在る」の方がしっくり来るっていうか。

 

―うん、君はもう大丈夫そうだね。それじゃまた