だがあまりゆっくりもしていられない。ライトを持ってきていないので暗くなる前に降りる必要がある。茶屋の人に尋ねるとこの時間なら栃谷尾根からさくっと降りた方がいいとのこと。
当初私は奈良子尾根から降りるつもりでいた。試しにそれも聞いてみると、一番時間のかかるルートらしく今からだと全くおすすめできないということだった。危なかった。迷ったときはやはり現地の方に聞くのが一番。
肝心の栃谷尾根ルートは白馬の像の先にあった。そこから階段を降りると道が二手に分かれる。それを右に曲がる。するとまた二手に分かれる。それも右に曲がる。うっかり左に曲がると景信山の方へ行ってしまう。つまり縦走コースとなりいつまで経っても降りられない。
下山するのは今回が初めてだったが登るよりも断然楽だった。まず足を上げる必要がない。そして勝手に前へと進んでくれる。Kは途中から小走りになっていた。
私も気付けば自然と小走りになっていた。逆に勢いを止めてしまうとつま先にかなりの負担がかかってくる。巻き爪の私には会心の一撃がずっと続くようなものだ。
Kは小走りしていて気分が高まってしまったのか次第に笑い出した。それを見た私も何だかおかしくなって笑ってしまった。かくして私たちは笑いながら小走りで山の中を駆け下りていった。
彼はどんどん先に行ってしまってついには見えなくなった。途中で少し道に迷った私は心細くなってKの名を呼んだ。返事はなかった。ただ葉の揺れる音だけが聞こえた。それから道を見つけて進んでいくとKがいた。ほっとした。
登山口まで戻ってきたときには16時半を回っていた。降り始めたのは15時ごろなので1時間半ほどかかったことになる。駐車場まで来た頃にはもうすっかり暗くなっていた。一服をして帰路についた。
帰りはナビの予想どおり19時半に着いた。駐車場に車を停めたあと歩いて今晩の飯処「牛王」へと向かった。疲れた後のタン塩は格別である。遊戯王やスーファミの話で盛り上がる。おっさん丸出し。
店を出ると、珍しくKがそこの公園でちょっとコーヒーでも飲んでいかない?と提案してきた。おやおや青春ですねなどと茶化しつつその誘いに応じる。すぐそばの自販機で買った缶コーヒーを飲みながら色々と話した。彼女欲しくないの?から始まりキャンプの計画やこれからのことなど本当に色々と。
帰りがけに「あそこにファミマあるじゃん?」とKが切り出す。「俺ずっとあれローソンだと思ってたんだよ。で、この前パン買おうと思って見てたら袋にファミマベーカリーって書いてあってさ。それでここファミマなんだ、って」
私は呆気に取られてしまった。そうなんだ。彼はそういうことを平然と言ってしまう人なんだ。そんなこんなでKと別れた。