移住についてまた調べていた。調べれば調べるほど選択肢が増えてゆく。もっと良いものがあるんじゃないかと余計に踏ん切りがつかなくなる。移住と捉えるから気負ってしまうのかもしれない。
そもそも一番に求めていたものは何だったっけ?一人静かな環境?自給自足?自然?今までとは違う生活?新たなつながり?
これ以上移住先を探すことはもうやめよう。とりあえず小田原、二宮町、茅ケ崎、相模原の中から選ぶ。実際に住んでみて気に入らなかったらまた移ればいいだけのこと。ただそのときには今よりずっと持ち物も増えていて難しそうではあるけれど。
日帰りでいいから行ってみるか。このまま家でパソコンとにらめっこしていても埒があかない。そうして重い腰を上げて13時ごろに家を出た。
最初に訪れたのは茅ヶ崎駅。降り立った瞬間、「ここは違うな」と思った。買い物には不自由しなさそうだが、これではあまり川崎から移る意味がない。
南口駅前の昔ながらの中華そば屋といった佇まいのラーメン屋へ入る。ラーメン1杯なんと300円。これでちゃんとやっていけるのか逆に心配になった。薄味ながら出汁がしっかりと効いていて物足りなさは感じなかった。
その後1時間ほど歩き電車に飛び乗った。しかし暑い。皮膚にまとわりついてくる感じ。夏はもうすぐそこまで来ている。
次に降りたのは二宮駅。南口を出た瞬間、「あ、ここだ」と思った。この寂れた感じ、実にいい。家を出る前にネットでちらりと見かけた太平洋不動産も駅の近くにあった。
海へ向かおうと思い、少し坂道になっている道を突き進む。坂を登り終えようとしたあたりで、ほのかに丸みがかった水平線が唐突に現れてきた。思わず息を呑んだ。海の近くに暮らしたいと改めて思った。Googleマップでは決して得られない感動がそこにあった。
でもあいにくその道は海岸へは繋がっていなかった。はやる気持ちを抑えて来た道を引き返した。一つ目の十字路を右に折れて、二つ目の十字路をまた右に折れた。↑海岸と書かれた標識を見つけ気持ちがまた昂る。
坂道を降りていくと車道をくぐるようにして海岸へとつながっていた。砂利だらけで何度も足を取られながらも波打ち際まで進む。磯の香りをふんだんに染み込ませた風が頬をしきりにさすってくる。
海だった。僕が求めていたのは海だったとこのとき確信した。このあと小田原にも足を運ぶつもりだったがやめた。この感覚を上書きしたくなかった。そして家路に着いた。川崎駅の改札を抜けたとき、時計台の針は17時35分を示していた。
●今日みたもの