全く寝付けないまま朝を迎えた。伊豆大島の時もそうだった。8時ごろ食堂へ向かう。ボリューム満点の朝食に驚嘆。おかわり自由ですよなどと女将が呟く。何とか食べ切れた。フルーツや生野菜も食べた。偉い偉い。

 

8時半時ごろ宿を出て小田原城へ向かった。Aと来たのは確か8年前だったろうか。城の広場にいる猿山の檻を眺めていたら、ボス猿がその辺のメス猿を捕まえていきなり見せつけるようにバックでパコパコやり始めた時はさすがに参った。

さくっと見終えて駅へ向かった。するとまた心臓がドキドキしてきた。このまま帰ってしまおうかという考えが頭にちらりと浮かんだ。それからみどりの窓口の隣でどうしよっかなーと延々考え始めた。

 

懸念していたのは、熊野に向かったとして途中で気分が悪くなってしまったらどうしようかということだった。でもきっとこの動悸は甘えによるものだ。家に帰ったからといって治まるようなものではない。むしろますます悪化しかねない。甘えが原因なんだから。

 

ひとまず新幹線の乗り口まで行くことにした。そして券売機で熊野市までの乗り継ぎ切符を買った。14,130円也。後ろは女子大生3人組、通路を挟んで隣は男子大学生2人という超VIP席に心の中でわんわん泣いた。しかも座席の角度が90度でみぞおちが辛い。

 

名古屋でJR南紀という2車両の在来線に乗り換えた。椅子がもふわふわとしていて気持ちいい。熊野市までは約3時間。小田原と名古屋よりもさらに長い。ホームのコンビニで飲み物と軽食を選んでいるときに、小田原駅で乗り合わせた母と少年と再び出くわした。何となくほっとした。

電車は市街地や霧がかった山の中をひたすら突き進んでゆく。幻想的な光景に思わず息をのむ。やっぱり来てよかったと思った。熊野市駅には16時過ぎに着いた。降りた瞬間になぜか懐かしさが込み上げてきた。

飛び込み先のゲストハウスへ向かっている途中で、激しい雨が降り始めてきた。折り畳み傘では防ぎ切れなかった。湿った熱気が肌にまとわりついてきてひどく気持ち悪い。

玄関の引き戸には鍵がかかっていた。もしかして不在?と不安が募り始めていると中からガチャっと鍵を開ける音がした。同世代ぐらいの男性が穏やかな笑顔で出迎えてくれた。幸運にも部屋は空いていた。スーファミや駄菓子など小さい頃夢中になったものがたくさんあって、興奮のあまりオーナーとつい語り合ってしまった。

流れで近くの喫茶店ホワイトに夕食を食べに行くことになった。この時点でもう20時を過ぎていた。ハンバーグ定食をつっつきながら色々な話をした。店を出たのが22時頃でそれからまたゲストハウスで1時頃まで語り合った。

 

人生を見つめ直すのに熊野以上に最適な場所はないのかもれしないと思った。現にそういう人々が集まる会も存在するらしい。主導しているのは御年80歳の橋村さんという男性で、オーナーも何度か参加したことがあるとのことだった。

 

話を聞いているとなんとなくだが、ラマナやニサルガダッタに通じるものを感じた。まさかそういう人が実在するとは思わなかった。身近にそうやって警鐘を鳴らしてくれる方がいるのは何とも心強い。今の僕にはきっと小田原よりも熊野の方が合っているだろう。

 

小田原も確かに環境的には似ているけど、そこに住む人々は果たしてどうだろう。仮にもし入居審査が落ちたとしたら、そういうことだと思って潔く熊野に移り住むとしよう。虫や獣は確かに怖いけれど、それ以上に素晴らしいものがここにはある。

 

二階建てのゲストハウスは貸し切り状態になってしまって、寝るときはちょっと心細かった。

 

●今日のありがとう

・朝食をサービスしてくれたホテルスタッフ

・熊野まで無事に運んでくれた駅員さん

・当日予約を受け入れてくれたゲストハウスの管理人さん