家を出ることが決まったのはもちろん嬉しい。でもどこか煮え切らないのは熊野のことが引っ掛かっているからだ。いつかは熊野に住みたいと考えながら小田原に引っ越すなんて時間と金の無駄じゃないか。今こそ、そのいつかじゃないのか。

 

そんな風に考え始めると結局どうすればいいのか分からなくなる。仮に小田原を取り止めたとしても、熊野ですぐ物件が見つかるかは分からない。その間はこれまで通りの日常を送ることになる。果たして耐えられるだろうか。

 

旅に出る前と後では全く別人のようだ。これほど考え方が変わるとは思わなかった。やっぱり自分の目で直接見たものからの影響って大きいんだな。

 

理想を言えば小田原と熊野の二拠点生活だけど、それにはそこそこの金が要る。そもそも住んでいないのに金を払うなんてそっちの方がよほど無駄ではないか。だから両方は選べない。二つに一つ。

 

小田原の物件はまさに理想通りだった。あそこでならきっと快適な暮らしができるだろう。でもそれは家の中に限った話だ。一歩外に出ればそこには何のつながりもない。孤独だ。

 

対して熊野にはYがいる。ゲストハウスやシェハウスもいくつかあるしどこか開かれた雰囲気がある。確かに家は古いかもしれないが、そこには人とのつながりがある。

 

不動産屋に連絡をしてひとまず契約を延期してもらった。それから移住担当者に長期滞在用の宿が空いているかどうか確認の連絡を入れた。気持ちはもう8割方熊野に傾いている。

 

夕方頃、熊野のYからふいにメールが届いた。このタイミングで来るということはきっとそういうことなのかもしれない。とにかく迷ったときは直感に従おう。今までのように。