旅行から帰ってきて丸1週間が経った。嵐のように感情の揺れ動いた1週間だった。週の前半までは小田原に引っ越すことに何の迷いもなかった。それこそが正しい道だと思っていた。
ところが週の後半になると迷いが生じ始めてきた。小田原はもしかして妥協なのではないかとさえ思うようになった。熊野で過ごした日々はそれぐらい素晴らしいものだった。安穏だけがあった。
いつかを待っていたらあっという間にジジイになってしまうだろう。時間は加速する一方なのだから。それに、そのいつかは本当にやって来るのだろうか。歳を取ればその分臆病になるものだし体力や意欲だって低下する。病気にだってなるかもしれない。それならば今なのではないか。
可能性を探り続けることはもうたくさん。与えられた一生のうちにできることは、自分が思うよりはるかに少ない。苦悩することにこれ以上時間を費やしたくはない。何かを始める時にはどうしても不安がつきまとう。でもその不安は困らせようとして現れたのではない。楽しませるためだ。
まずは小田原の物件をキャンセルすることから始めよう。ああ、今から緊張してきた。