イザナミのことについて調べようと思い昼ごろ図書館へ向かった。途中で郵便物や国保の支払いをするため郵便局へ寄った。店内には1歳ぐらいの女の子とその母親がいた。事務処理が終わるまでソファで寛ぎながら待っていると何となく見られている気配を感じた。ふと見ると例の女の子がビー玉のような目でこちらを凝視していた。
こちらが見れば目を逸らし、こちらが目を逸らせば見てくるといったような押し問答を何度か続けているうちに職員から名を呼ばれた。手続きを終えて外に出ようとすると、あの女の子はまだこちらを見ていておまけに手まで振ってくれていた。なんて可愛いのだろうと思うと同時に、この歳からもう女は女なんだなーと少し恐ろしくもなった。
図書館の前に腹ごしらえでもと思い駅前の食堂へ寄った。先客は4名ほどいた。僕が席に着いた時、ある一人客の男性がレジで会計を済ませようと立ち上がった。彼は昨夜ハンターカブで東京から来たと店主に告げた。そしてこのあとは全くノープランで宿も決まっていないんですと困ったように笑った。
店主は「それならそちらの方の友人が宿をしてらっしゃいますよ」などと僕の方を向きながらさらりと答えた。突然舞台の上に駆り出された僕は一切動揺を隠すことなくただただ目を丸くして店主の方を見返した。それから電話を手に取り山ちゃんに連絡を取った。あいにく部屋は空いていなかった。
間もなく注文していたエビフライ定食が席に運ばれてきた。喰らいつく僕を尻目に彼はその後もレジの前で話しかけ続けてきた。すぐそばには妙齢の女性客もいた。彼女はそれならこの宿がいいんじゃないかしら?とフレンドリーな口調で彼に提案した。
それから彼女は誰に聞かれたわけでもないのに自らのことを語り始めた。ここへは実家を整理しにやってきたのだという。不動産に出しても全く買い手がつかないため譲渡の方向で話を進めようとしているらしい。
僕は絶えず相槌を打つ。なんという好青年だろうか。そんな僕を箸に摘まれて宙に浮いたままになっているエビフライが冷ややかに眺めていた。
結局僕らは同じタイミングで店を出た。彼には那智の滝を、彼女には空き家バンクをそれぞれすすめた。それから役所の濱田氏に連絡を入れて、そのまま彼女を市役所の窓口まで連れて行った。途中でお暇して外に出てみると、何だか途方もない達成感に見舞われて少し心がくすぐったくなった。
それからふと図書館へ行くことを思い出しておまけ程度の気持ちで寄ることにした。熊野の歴史コーナーに向かうとある一冊の本が目に留まった。その本の題名は光の書。早速手に取ると、今の悩み事を心に念じつつ二つの模様を順に選んだ。
ページを繰るとそこにはそのものずばりの答えが書かれてあった。書かれてある通り三回読み直してからパタリと本を閉じた。それから山ちゃんと合流した。このあと磯崎の方でDJイベントがあるというので少し覗きに行くことにした。
着いてみるとそこは猫の楽園だった。その数はイベント参加者を優に超えていた。カメラを持ってきておいて良かった。脇目も振らずに延々と撮り続けた。
気を取り直して会場に向かうと、そこには18号似の子連れ金髪巨乳タンクトップギャルがいた。おっぱいばかりに目がいってまったく音が入ってこなかった。自分はやはり生粋のおっぱい星人なのだなと改めて思った。
割とすぐに退散して、それからまた例の食堂に寄った。氷のたっぷり入ったコーヒーは喉を一瞬でオアシスにしてくれた。家に着く頃にはもう空は真っ黒くろすけになっていた。
思い返してみると綿飴のようにふわふわとした一日だった。ここにいると人とつながることが全く苦にならない。加えてそれを得るのに一切の苦労を必要としない。ここは本当に不思議な場所だ。住めば住むほど虜になってゆく。