人間とは都合の良い生き物で、言ったことはすぐ忘れてしまうくせに言われたことはよく覚えているものだ。でもそのことさえ忘れずにいれば、余計な諍いに巻き込まれることもない。
僕と彼はクラゲのように夜の街を漂った。そして気の向くまま、ニューハーフパブへと吸い込まれていった。そこで彼はジャイアンも呆れ果てるほどに延々と歌い続けた。その勇姿はまさにマイクハナサーズそのものだった。
こうして旧友との他愛ない時間は、インスタントコーヒーよりずっともっと早く溶け去っていった。3時過ぎ、いつもの交差点で彼と別れとぼとぼと帰路についた。ふいにメビウスの残り香が鼻をついてきて、思わず上を向いた。
一方その頃、彼は水着パブで束の間の夢を見ていた。やはり悪友はこうでなくちゃいけない。
まったくもって酔い夜だった。

