手足は冷たいのに顔は熱く、暑くもないのに汗は止まらず。心臓ははち切れんばかりに高鳴り続ける。入場ボタンを押すタイミングが一向につかめぬまま、右手人差し指はマウスの上で右往左往している。

 

こんな状態で果たしてこれからの7時間を乗り切れるのだろうか。不安はますます募り、ついには申し込むんじゃなかったと悔やみ始める。

 

今ならまだ逃げられるよ?もう一人の自分がそんな甘ったるい提案を持ちかけてくる。いいや、逃げないよ。もうこれ以上自分にがっかりしたくないんだ。だからこれから自分がやることをどうかそっと見守っていてほしい。

 

不安になるのも緊張するのもビビるのも無理はない。だって初めてやるんだから。問題はそれらをダメなことだと捉えてしまうことにある。だから余計に自分をダメなやつだと思ってしまう。

 

不安も緊張もビビりも全て自分の一部だ。まるまる抱え込んだまま、えいやと飛び込んでしまえばいい。あとはきっと時間が解決してくれる。

 

それから一つ深呼吸をして、右手人差し指をゆっくりと下ろした。

 

結論から言うと参加して良かった。途中でグループに分かれて話し合ったり、講師に当てられて皆の前で感想を言ったりとヒヤヒヤする場面もあったが、何とか無事最後まで乗り切れた。

 

最後まで心臓のバクバクと汗のダラダラは止まらなかった。でもその状態も楽しむことができた。退場ボタンを押した後、疲労感と安堵感と達成感がどっと一斉にやってきて、しばらく座椅子から動けなかった。

 

確かに小さな一歩だったかもしれない。もしかしたらこれっきりで終わるかもしれない。けど確かに一歩踏み出せた。今の自分にはもうそれだけで十分だ。少し自分を見直した。

 

僕同様、不運にも講師に当てられて感想を言う羽目になったある参加者が「人前で話すのがとても苦手で」と切り出したとき、自分だけじゃなかったんだととても救われた思いがした。そして懸命に伝えようとするその画面越しの彼女の姿に強く心を動かされた。

 

上手くできなくても、不格好でも、みっともなくても、とにかくやってみる。そこにこそ本当のかっこよさがある。

 

今日感じた全てのことを忘れずにいよう。