起きてからしばらく経つと雨が降ってきた。小説を書こうと思っていたのに気が付いたらスマホを手に取っていた。そしてまたあのアプリを開く。赤文字が踊る。無感情でひたすら文字を打ち込む。気付けば13時になっていた。
たくさんのやり取りをした。相手によって自分を入れ替えてゆく。繰り返しているうちにどれが本当の自分か分からなくなる。そんなもの元から無かったのかもしれない。
予想していなかった反応があるとどきっとする。音痴だがカラオケに行きたいとつぶやく女の子に普通のメッセージを送ると思いっきり下ネタが返ってきた。想定していた流れは途端に崩れる。
無数の選択肢が瞬間的に浮かぶ。どう送ろうかではなくどれを送ろうか。悩むことはいつもそれだ。幸いなことに返しのアイデアは無数にある。LINEに捧げた20代は無駄ではなかった。
10代の頃からずっとギャグセンスが高いと言われ続けてきた。面白いことを言えなければ存在価値すらないという強迫観念に駆られた人間からすれば、そうならざるを得なかった。アホみたいだがわりと必死だった。どう言えば面白いだろうかとひたすら錯誤し続けた。
でも結局のところ、それを面白いと思うかどうかは他人次第だ。シュールなネタが好きな人もいれば分かりやすいボケが好きな人だっている。そうなると常に100点を取るためにはその人に合ったものを提供し続けるしかない。カメレオンのようなものだ。
誰にでも合わせることはできるが、誰の一番になることもできない。それがカメレオン人間の末路。僕は最初から間違っていた。願わくばカメレオン好きの女の子に出会えますように。