タマタマとケツの間に広がる所属先のよく分からない部位が、かゆい。夏前にフィリップスの電動シェーバーでパイパンにしてやったのにもうわんさかと生えてきている。フィリップくんもまさかこんな使われ方をしようなどとは夢にも思わなかっただろう。事後、心なしか泣いているようにも見えた。
ちなみにパイパンという言葉はずっとえっちな用語だと思っていた。その後で麻雀の白牌が由来だということを知った。そのときのことははっきりと覚えている。きっかけは親父が「そろそろお前も麻雀覚えないとな」と言ってきたことだった。
元々親父も母も麻雀が好きだった。小さい頃いとこの家に遊びに行くと大人たちは夜を徹して麻雀に耽っていた。その間、子供たちはドンジャラに夢中だった。
そういうわけで、家には昔から緑のマットと麻雀牌があった。牌を勢いよくマットに投げ出して親父がこう言った。慣れてくると指で触っただけでどの牌か分かるんだ。そしておもむろに裏返しになっている牌をつかんで親指で撫で始めた。渋い顔をしながらああとかおおとかうーんとか言いながら。日活ロマンポルノでも見せられている気分だった。
何度目かの牌で親父はこう言った。こりゃパイパンだ。おいおい、この親父はけろりと何てことを言いやがるんだと思った。親父の正面に座る母はそりゃあすぐ分かるわよねと返す。僕の脳裏には小4の頃の悪夢のような思い出がはっきりと映し出されていた。
そう、あれは佐藤くんと近所の駄菓子屋に行ったときのことだ。店先には小学生相手にデカい面をする器の小さな中学生がいた。近づいてみると彼はこんなことを言ってきた。「よお、お前ら。まんこって知ってるか?世界で一番甘いフルーツのことなんだぜ。食べたかったらママに頼んでみな」
佐藤君と僕はそのまんこというフルーツの虜になった。もはや手に持ったヨーグルとゴールドバーチョコのことなんてどうでも良くなっていた。この時の僕らの頭の中には「早く家に帰ってお母さんにまんこを食べさせてもらいたい」という願いしかなかった。
家に帰って僕は早速母に頼んだ。お母さんまんこ食べたい!母は何それ?と尋ねる。母はこのとき本当に知らなかった。僕は「知らないの?世界で一番甘いフルーツのことだよ!と怒ったように返す。それから父が帰ったら聞いてみようということになった。
父、帰宅。僕は玄関先に走って「ねえ父さん。まんこって知ってる?食べてみたいんだけど!」と目を輝かせながら言った。父は憮然とした表情でこう返した。「いいか、二度とその言葉を口に出すんじゃないぞ。もしまた言ったら本気でグーだからな」僕はその鬼のような形相に思わず押し黙るしかなかった。そして小さく「はい」と言う。
親父がこりゃパイパンだと言ったとき、僕はあの時の親父と同じようなことを思った。もう二度とその言葉を口にするなよと願った。それから親父はこう言った。「パイパンって知ってるか?その由来はこれなんだぜ」
思えば昔から陰毛が多かった。高校の時、ぱんいちで友人とウイイレをしていたらうっかりタマタマが飛び出してしまっていたことがあった。
それに気付いた友人がタマタマのことは一切話題に出すことなく「てか陰毛多くね?もうあれだな。密林の黒竜王だ。遊戯王の」と勝手にあだ名を付けてきた。名前負けもいいところだったが、それほど嫌ではなかった。
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