一人、山道を歩いていた。太陽は木々に遮られ昼でも薄暗くひんやりとしていた。歩きながらふとこんな阿呆なことを考えた。

 

ここで突然僕がばたりと死んだとしても、気付く者は誰もいないだろう。そのとき僕は本当に死んだといえるだろうか。

 

死というものは知らされて初めて事実となる。つまり、死んでいるけど死んでいないということだ。でもよくよく考えてみると、疎遠になった友人だってこれと同じようなものじゃないか。

 

もしかしたらあいつもあの子ももうずっと前に死んじゃっているかもしれない。でもそのことを知らない限り、今だって彼らはあの頃の姿のままでピンピンしている。

 

そう考えると、自分が生きているということさえ何だかとても不確かなことのように思えてくる。自分は今、実体としてちゃんと生きているだろうか。魂だけになっていないだろうか。

 

バス停まで戻ってくると雨が降り出してきた。それで僕の妄想は全てすっかり洗い落とされた。ただもうバスが早く来ることだけを願うばかりとなった。人間の思考はこうしてぐるぐると巡る。

 

どうやら僕はまだ生きているらしい。