前回からの続き。

 

大山を出発したのは15時半ごろ。ナビの到着予想では2時間半。Kに山頂はどうだったと聞くと「んーまあ普通だった」とのこと。

 

それよりも道がどんどん険しくなって大変だったらしい。道なき道を進むといった具合に。途中で救急隊に運ばれてゆく人も見かけたそうな。あのまま登っていたら私がきっとその当事者になっていたかもしれない。

 

東神奈川まで歩いたり、1日おきにウォーキングしたりして体力的にはまあ大丈夫だろうなんて思っていた。でも全くの勘違いだった。山を舐める以前に自分を過信しすぎていた。

 

ただK的にはとても面白かったらしい。それだけが唯一の救いだった。また登りたいとも言っていた。私もこのままやめようとは思ってない。でもその前にまずは体力づくりだ。ひとまずランニングをしようと心に決めた。改めて途中でリタイアしてしまったことをお詫びした。

 

晩飯の話になった。Kは寿司かステーキが食べたいという。焼肉もいいよね~と私が言うと「ああそっちだな」と一言。満場一致で焼肉に決まった。

 

最後に焼肉を食べたのはいつだったっけ。ああ、去年の12月だ。それもKと。最寄り駅にある三千里に行ったんだった。早いもんだなあ。時間の感覚が日に日に狭まっている気がする。

 

車内にはまたZARDが流れている。何周したか分からないが飽きることはない。中にはWANDSのカバー曲もあった。そこからドラゴンボールの話になった。

 

セル戦あたりのストーリーを詳細に語り出すK。セルを思い出そうとするとどうしてもプリズンブレイクのティーバッグを思い浮かべてしまう。あれほどのはまり役はない。

 

趣味を始めるには多少なりとも金がかかる。だが必ずしも続けられるとは限らない。実際にやってみたら向いてなかった。そういうことだって大いにあり得る。

 

そういう意味では、趣味を始めることはギャンブルに近いのかもしれない。だからこそ躊躇する。より確実なものを選びたいと慎重になり結局「何も選ばない」という選択を取る。

 

現状への不満はますます募る。次第に趣味を始める意欲さえも失われてゆく。仕事は順調だがどこか満たされず虚しい。

 

そういった負の連鎖に陥っている人って私も含めてどれくらいいるんだろう。ほんの少しでもこれじゃだめだと感じるなら、やっぱりそのままにしてちゃいけない。何か他のもので埋め合わせることもきっとできない。

 

今回の登山は私にとって本当に大冒険だった。結果的には失敗してしまったけど気持ちは妙に晴れやかでスカッとしている。こんな気持ちになったのはかなり久々だった。Kも楽しかったと言ってくれていたし本当に良かった。

 

18時過ぎに最寄り駅へ到着。車をK宅の駐車場に停めてから歩いて「肉小僧 匠」へ向かう。ほぼほぼ満席だった。ほとんど日常に戻りつつあるなと感じた。一通り注文し終えてしばし落ち着く。

 

何だろう、この充実感。休日を1ミリも無駄なく過ごしました的な。Kもようやくほっとしたのか表情が緩んでいる。タン塩のあまりの美味さにちょっと泣いた。結局タン塩だけで4皿食べてしまった。終わりよければすべて良し。しみじみそう思った。

 

20時ごろ店を出て、駐車場までまたぷらぷらと歩いた。明日筋肉痛だろうなーなどと他愛のない会話をしながら。それにしてもまったりとした良い夜。まるで銭湯帰りのような。

 

駐車場に着いて荷物を出したあと、改めて今日のお礼とお詫びをして別れた。一人になった途端、あたりは一気に静寂に包まれた。今日一日ずっと私のそばには音があった。それが今なくなった。これがいつもの日常。なのに何だか落ち着かない。ふわふわした感じ。

 

家に着いてからもずっと続いた。でも私はこの感覚を知っている。前にも経験したことがある。だから原因も分かっている。外部からの刺激に対するキャパオーバーだ。

 

誰かと会ったりどこかへ行くことは楽しい。だからこそ一人に戻ったとき余計に孤独を感じる羽目になる。でもずっと一人だったらそんな心配もない。だからなるべく一人でいるようにした。

 

一人が好きなのではなくて、ただ孤独になるのが嫌なだけだ。そういう人間は強そうに見えるが実はとても脆い。それでも誰かに頼ることはしない。そのあとにやってくるものが何かを痛いほど知っているから。

 

この夜さえ越えてしまえば大丈夫。だからひとまず今日のところはさっさと寝てしまおう。