最後に高円寺を訪れたのは確か24歳の時だった。その日はちょうど同級生の通夜があった。でもその現実と向き合うのが怖くて、知り合いのバンドのライブを観に行くことを選んだ。
めぐと出会ったのもその時で、僕の方ではビンビンと運命を感じていたけれど彼女は全くそうではなくって、やきもきさせられたもんだった。そのあたりの話はここに書いてある。
高円寺のホームに降り立つと、眠っていた思い出たちがそれこそ走馬灯のように頭の中を駆け巡って軽いエクスタシーを覚えた。あの頃の僕は何かになることに必死で昔を振り返ることなんて一切なかった。今だけに生きていた。
不安も多少あったかもしれない。でも何とかなるだろうと妙な自信がそれをすっぽりと覆い隠していた。何にでもなれると思ってた。目を覆い隠したくなるほどに未来は眩しく輝いていた。その未来は今じゃもう見る影もない。
何にもなれなかった僕をそれでも温かく包み込んでくれるこの街が心底恨めしい。向こうにギターケースを背負った長髪のバンドマンが見える。彼は何かを掴めたのだろうか。あの頃の僕もまた、そうやって誰かに思われていたのだろうか。
確かに年は取ってしまったけれど、他人に夢を託すほど年老いたわけでもない。まだまだやれることはある。もうひと頑張りしてみよう。
おっといけない、Aに連絡するのすっかり忘れてた。